1. はじめに

• 基本的な感想は「おもしろそうだけどよくわからない」。
• 「おもしろそう」。
  • 社会学（理論）の知的遺産はどう「ルールの評価」に接続できるのか。
• 「よくわからない」。
  • 社会学（理論）としてどれだけ新しいのか。
  • 「評価」を主要な仕事とする他の学問に対して何かアドバンテージがあるのか。
  • 社会学のグランドセオリーたりうるのか。（←）
    • 『規則は社会成員にとって既知なのでその「発見」に社会的意義はない』という主張についてEMCA研究との関係で考える。

1. はじめに

• 『 規則は社会成員にとって既知なのでその「発見」に社会的意義はない』という主張について。
  1. 社会成員が用いている、何らかの（一般的な意味での）規則を明確にすることに学術的意義がない、という主張は無茶である。
     ex. 言語学による文法の記述
  2. 「ルールの科学」の主張は、上記よりも限定されたものと解するほかない。
  3. 限定が「規則」概念にかかっているのか「発見」概念にかかっているのか「社会的意義」概念にかかっているのかあるいはそのすべてのような気もするが、ひとまずEMCA研究との関係で、「規則」概念について考える。

2. 『ルールの科学』のルール概念

…私たち一人ひとりが「何かをしよう」としていて、それを調整したり、協力し合ったりするために、ルールというものが必要なのだ。p. 46

この「やろうとしていること」をとりあえず「活動」という言葉で表現してみよう。p. 46

社会を「活動」の集積と捉えるルールの科学では、社会の構成要素は、生産、流通、教育、娯楽、政治（政策決定や市民サービス）などの「活動」だということになる。p. 47

本書ではこのような「活動」を表すためにゲームという言葉を採用する。p. 47

2. 『ルールの科学』のルール概念

• 活動の集積（ゲーム）に注目する。
• ゲームの「志向性」（当該ゲームにとっての「望ましさ」のようなもの）に注目する。
• ゲームの要素としての活動を、当該ゲームの「志向性」に沿う形でおこなうための、共有された方法を「ルール」と捉える。
• ルールを共有するための方法も「ルール」と捉える。

• 評価対象である「ルール」は、ゲームとその志向性によって決まる。
• 「ルール」が社会成員にとって既知であるとは、ゲームとその志向性が社会成員にとって既知であるということを意味するはず。

2. 『ルールの科学』のルール概念

• ゲームとその志向性を（研究者は）どのように入手・同定するのか？　
  cf. 社会システムの同定問題
• 『ルールの科学』の中では、「行為者間での調整と協力」というモデルに合致しそうな例が思弁的に与えられている。
  ex. 道路交通、サッカー、買い物、授業 etc.
• 「ルールの発見に社会的意義はない」という主張が出てくるのは、「ルール」の属するゲームとその志向性を、著者が想定するモデルに沿って、著者自身の一社会成員としての直観に従って入手しているからではないのか疑惑。

3. EMCA研究の関心

• ガーフィンケルがいくつもの（非人道的な）実験によって／サックスが「カテゴリー化の一般問題」のような議論で、示そうとしたこと：「いまどんなルールがこの場の振る舞いに関連あるのか」を、振る舞いそれ自体を通して示すという課題に、社会成員は不断に取り組んでいる（取り組まざるを得ない）。
• 「ルールの『内面化』や『共有』によって個々人がおこなう活動の調整や協力が可能になる」という説明モデルのもっともらしさは、特定のルールの関連性それ自体が、進行中の相互行為の中で達成されているということ自体を主題化しないことによって与えられている（"dope"）。

3. EMCA研究の関心

• 社会成員が、自らの振る舞いをこの場に関連あるルールのもとにおこなわれたものとして理解可能なように組み立て、相手の振る舞いをそのようなものとして理解するために用いている方法（論）の研究。
• ルールと行為の間を行為（者）モデルによって繋ぐのではなく、ルールをその上に示す行為の組み立て方への関心。
  • 前者の関心のもとで概念化された（行為と切り離された）「ルール」に関心があるわけではないので、EMCA研究は「ルール」という言葉にそれほど強いコミットメントはない（方法論、実践practice（の論理）、技法、手続き等々、他の色々な言い方で研究対象が表現される）。
    cf. シェグロフ – サール論争

3. EMCA研究の関心

• 「ルールをその上に示すために自分たちはどう行為を組み立てているか／自分たちはどのようなルールのもとで行為しているのか」を、社会成員は（文法的に適格な文を産出できる話者がその文法を知っていると言えるのと同じ意味で）「知って」はいるが、必ずしも明確に言語化できるわけではない。
• その体系的記述には、十分な認識利得がある（「社会というものについての理解を深めてくれる」）。
• このことは、とりわけCA研究がこの半世紀のあいだにすでに十二分に示してきたことであり、議論の余地はないと思う。
• それが『ルールの科学』のモデルにおける「ルール」概念に含まれないならそれは単に関心が違うというだけのことだし、含まれるなら「評価こそが社会学の課題」とは簡単に言えないはずだと思うが、どうなのか。

4. 『ルールの科学』とEMCA研究

• ルールの関連性問題への関心の有無という点で、両者の距離は著者が想定するよりもおそらく遠い。
• もちろんそのことはなんら『ルールの科学』構想の価値を毀損するものではないが、「社会学のグランドセオリー」を標榜されると個人的には「否」と言いたくなるし、異なった関心にもとづいてEMCA研究を批判されても困る。
• 逆にEMCA研究のような「ルールの記述」があるからこそ可能な「評価」のありかたも、EMCA研究はすでにそれなりに示してきた。どうせならそれらを包摂するモデルを目指したほうが、社会学ならではの「評価」を考えられるのでは？